(1) 高い呼気圧の生成
高い音を出すためには、横隔膜の緊張をしっかりと保った上で、お腹の筋肉群に力を入れ、お腹を「バン」と、強く、速く、勢いよく、前に膨らませます。強い腹圧を素早くかけることで、高い圧のかかった息を生成します。
(2) 高い音に適したアンブシュアの形成
ケーナの歌口でカルマン渦を生成して、柔らかで綺麗な音をケーナから出すためには、吐きだす息の細さ、方向、流量、速度を音の高さに合わせて、適切にコントロールできるアンブシュアを形成する必要があります。
(a) 唇の構え
唇は、両端部分を軽く圧着させて閉じ、唇の中央中部分は、力を入れずに、柔らかく保ちます。
唇の中央部分にできるアパチュア(空気の噴出口)は、強力な圧力が加わった時のみ、開きます。舌が唇に触れている時には、アパチュアはできず、唇は閉じられております。
高い音を出す場合でも、唇の構えは、低い音を出す場合と同じです。初心者にとって難しいことですが、余分な力を加えずに、唇と頬と咽頭の状態を自然に保つことが、「吹かない」秘訣です。力を入れるのはお腹です。
唇の構えを低い音を出す時と高い音を出す時で切り替えることは、安定した音を出す妨げになります。
(b) アパチュア
高い音を出す場合、アパチュアができる唇の中央部には、力を加えずに、逆にアパチュアを縦に開く位のつもりで、柔らかく保ちます。
アパチュアを縦に開くつもりになることで、唇の両脇からの引っ張る力が弱まり、唇の中央部を柔らかく保つことができるようになります。
アパチュアは、鳴らそうとする音の高低に合わせて、横幅と高さを臨機応変に変えます。低い音のアパチュアは横幅も高さも大きくなり、高い音のアパチュアは横幅も高さも小さくなります。
アパチュアの大きさを変えるためには、唇の周囲にある口輪筋が本来的に備えている、唇の中心に向かって唇をすぼめる動きを活用します。口輪筋を使って、アパチュアの大きさをコントロールして音の高さを変えます。
演奏者は、横隔膜の緊張をしっかりと保った上で、お腹の筋肉群に力を入れてお腹を「バン」と膨らませませ、「ふぅぅー」と、細く、速く、鋭い息をアパチュアから噴出させることで、ケーナから高い音を出すことができます。
(ⅰ) 細い息をイメージして音を出す
この時、ペンのような太さの息をイメージして息を出すと、大きめのアパチュアが形成され、それが低い音を出す時のアパチュアになります。
爪楊枝のような太さの息をイメージして息を出すと、小さなアパチュアが形成され、それが高い音を出す時のアパチュアとなります。
高い音を出すためには、細くて速い息を、鋭く出す必要があります。吐きだす息の細さ、方向、流量、速度を適切にコントロールするためには、アパチュアは常に柔らかく保つ必要があります。唇に力みあると、ケーナからはノイズ混じりの固い音しか出ません。変化自在に柔らかな音を出すためには、意識的に、アパチュアを柔らかく保つ必要があります。
(ⅱ) アパチュアを作る場所
アパチュアを作成する場所は、唇中央部にある、唇の柔らかい部分と固い部分の境目です。
唇の外側の皮膚は固く、表面は荒れております。唇の中央部であっても、表面が固くて荒れている部分にアパチュアを作ると小さなアパチュアを作ることは難くなります。ですから、皮膚の固い部分にアパチュアを作れば、結果的に大きなアパチュアにならざるを得ません。
一方、高い音を出す場合には、音の高さに合致する息の速度が必要になります。
しかし、大きなアパチュアでは、沢山の息を消費するため、ロングトーンを長い時間出すことは困難です。また、皮膚の固い部分に作成したアパチュアでは、柔らかくて綺麗な音を生み出すことはできません。
ただ、「アパチュアは唇粘膜の柔らかな部分に作成する」と説明しただけでは、実際にどうすれば良いのかが分かりにくいと思います。
そこで、私が、「カラオケーナ」ホームページを運営しているUchi先生から教えて頂いた内容を以下で引用します。
「アパチュアを狭くする方法をお伝えします。普通の唇で、狭くしようとすると唇を横に強く引くしかありません。こうすると、縦の幅は狭くなりますが、横に広がり息はまとまりません。
下唇を少し外側にめくるようにすると、アパチュアは縦にも横にも狭くなります。
こちらに動画で解説してありますのでご覧ください。下唇をめくる、という動作はリンクしてあるフルートの動画が分かりやすいと思います。」
Sir James Galway Masterclass - Embouchure ユーチューブ
随分、分かりやすい説明をして下さいます。なお、ケーナの場合、フルートほど下唇をめくり出しません。
(ⅲ) アパチュアを小さくする方法
① 唇を真横に引いてアパチュアを小さくする方法
唇を横に引くことでアパチュアは小さくなりますが、唇の中央部に力を入れたままでは、柔らかい音を出すことはできません。この場合、唇の両脇を後ろの方(耳の近く)で軽く閉めるものの、唇の中央部は力を抜き、アパチュアを縦の開ける感じで柔らかく保つように心がけます。
② 口輪筋を緊張させてアパチュアを小さく保つ方法
2オクターブ目の音を出せない人は、唇の周りにある口輪筋を緊張させてアパチュアを小さく保つように努力する必要があります。「プッ、ブッ」とスイカの種を飛ばすようにして見ると、唇の周りにある口輪筋が緊張する様子を体感できます。この口輪筋の動きを意識しながら、ケーナを鳴らすようにします。但し、この時、息を「吹かず」に、お腹の筋肉群と横隔膜を使って息を吐き出すように心がける必要があります。
(ⅳ) Charlie Porter氏の推奨するアパチュア・コントロール方法
ジュリアード出身のトランペット奏者、Charlie Porterは、高い音を出す時のアパチュアと低い音を出す時のアパチュアの動きを画像で見せながらコントロール方法を説明しております。
Charlie Porter氏の説明内容を簡単に取り纏めて引用すると、以下の二点になります。
① アパチュアを小さくする時、唇を巻き込む形になると、アパチュアが消失するので、注意する必要がある。アパチュアが消失すれば、当然だが、音が出ない。
② 基本となるのは、スープを覚ます時の唇の形。ペンのような太さの息をイメージすると、大きめのアパチュアとなり、それが低い音を出す時のアパチュアになる。
そして、もっと細い針のような太さの息をイメージすると、小さなアパチュアとなり、それが高い音を出す時のアパチュアとなる。
筆者補足説明
Charlie Porter氏は、「基本となるのは、スープを覚ます時の唇の形」と言っておりますが、スープを冷ます時のように「息を吹け」とは言っておりません。息は「吐く」ものであり、楽器は「鳴らす」ものであることを強く意識する必要があります。
(c) 高い圧力に対応できる気道の生成
高い音を出す場合、高い圧力に対応できる気道を形成しなければ、高い圧のかかった息をアパチュアから出すことはできません。
(ⅰ) 咽頭気道の通りを良くして息の圧力を確保
高い圧力を作り出すためには、腹筋を始めとするお腹の筋肉群と横隔膜を使って肺に圧力を掛けると同時に、咽喉気道の通りを良くした上で、咽頭から息を吐き出す必要があります。
そのため、高い声を出す時に同じように、息の通りやすい咽頭気道を作ります。具体的には、顎を引き、後頭部を持ち上げることで、咽頭気道の通りを良くできます。
また、椅子に座ったままより、背筋をしっかりと伸ばして立ち上がり、お腹の筋肉群と横隔膜が動きやすくなるように正しい姿勢を保ったまま、顎を引き、後頭部を持ち上げることで、息はさらに通りやすくなります。
(ⅱ) 頬と唇をしっかり保持することで息の圧力損失を防止する。
口腔においては、緩んだ頬と緩んだ唇が息の圧力をロスしないように、頬と唇をしっかりと保持する必要があります。軽く緊張させないと、頬は緩みます。
高音域の音を出す時、口腔内に作成した気道から流れ出す息を、直接アパチュア目がけてぶつけるのではなく、上唇の中央部裏側にぶつけるようにします。圧をかけた息を直接アパチュアにぶつけると「息を吹く」のと同様の現象が生じるからです。
圧のかかった息の流れを上唇の中央部裏側にぶつけることで、アパチュアに息の圧が直接かかることを防止できるため、アパチュアで息の方向や流出量のコントロールすることが容易になります。
なお、咽頭や口腔内の気道生成に関する考え方は、筆者に独自のものであり、インターネット上では類似の知見を見つけることはできませんでした。私の考えに賛成あるいは反対する考えをお持ちの方からのご連絡をお待ちしてます。
(3) お腹を十分に練る
高い音を出す場合、初心者は、準備運動を十分に行った後、高い音を出すと「吹かず」に「鳴らす」ことができます。
私の場合、使用しているケーナ(ポルティージョ)のミの音が通常のケーナより低いため、2ミより高い音は「吹く」悪癖が身体に刻み込まれました。
音が出ない恐怖感を和らげるためには、ケーナを持たずに、腹筋と横隔膜を動かして、アパチュアから細い息を速く出す練習を何回も繰り返して、お腹を温めておくと良いと思います。